美容室を5年、変えていない理由。

美容室を、5年、変えていない。

厳密に言うと、担当の美容師さんを、5年、変えていない。

ヘアメイクを仕事にしている人間が、自分の髪だけは、誰かに完全に、任せている。

今日は、その話をします。

目次

5年前の、最初の出会い。

その美容師さんとの出会いは、普通のカット予約でした。

別の美容室を転々として、その日、たまたま知人に紹介されて行った店。

カウンセリングが、始まった瞬間から、ちょっと違った。

「今日、なにをしてほしいですか?」と聞かれない。

代わりに、

「普段、どんなスタイリングをしていますか?」
「朝、鏡の前で何分くらい、時間をかけていますか?」
「髪で、いちばん気になっている部分は、どこですか?」

質問が、日常のほうに、向いている。

私が何をしてほしいか、じゃなくて、私が普段、どう暮らしているか。

そこから、カットの提案が、組み立てられていく。

この順番で話す美容師さんに、私は、初めて会った。

私の暮らしを、知ってくれている人。

5年経った今、その美容師さんは、私の暮らしを、かなり深く、知っています。

前回の予約から今日まで、仕事はどう変化したか。
家族との関係は、どう動いたか。
体調は、どうか。
心の温度は、どのへんか。

私から言葉にしなくても、鏡の前で会話しているうちに、自然と、伝わっていく。

その情報を、髪型に、反映してくれる。

「最近、疲れていそうなので、今日はちょっと軽めで、洗うのが楽なスタイルにしますね」
「仕事が大きくなる時期なので、襟足を、少しきっちり締めましょう」
「冬に向けて、前髪、少し厚めに残しておきます」

私の髪型は、私の暮らしの、延長線上に、切られていく。

新しいお店に、浮気しない。

もちろん、5年間で、ほかの美容室に興味を持ったこともあります。

Instagramで流れてくる素敵なお店。雑誌で紹介される話題のサロン。友人が通っている安くて腕のいいお店。

でも、行かない。

理由は、ひとつ。

5年分の、積み重ねを、手放したくないから。

新しいお店に行けば、たぶん、新鮮な発見がある。いい美容師さんとの出会いもあるかもしれない。

でも、そこは、「新しい美容師さんに、私の情報を、ゼロから説明する」というスタート地点。

私の髪質、私のクセ、私の暮らし、私の好み。

これを伝え終わるまでに、3回くらいの来店が必要。その3回の間は、試行錯誤の期間。髪型が、しっくりこない時期が続く。

5年の積み重ねは、そう簡単には、置き換えられない。

長く通う価値を、積み上げる。

美容師さんとの関係は、銀行預金のようなものだと、思っています。

1回1回の来店が、少しずつ、預金を増やしていく。

3回目の来店では、私の「髪の硬さ」が、覚えられている。
5回目の来店では、私の「仕事のペース」が、分かっている。
10回目の来店では、私の「好きな前髪の形」が、センスに刻まれている。
30回目の来店では、私が言葉にしなくても、私の気分が、読まれている。

この「預金残高」が、関係の濃度。

別のお店に行くと、この残高は、ゼロに戻る。

ゼロから積み上げ直す体力が、大人になると、だんだん、減っていく。

料金が、値上がりしても、動かない。

5年の間に、その美容室の料金は、2回、値上がりしました。

カット料金が、5年前と比べて、たぶん3割くらい、上がっている。

それでも、変えない。

安い美容室と比較して、「損している気分」になる時期も、正直、ありました。

でも、よく考えると、それは損ではなく、蓄積への投資。

安いお店を何軒か渡り歩いて、3ヶ月に1回、髪型がちぐはぐになるくらいなら、料金が少し高くても、ぴたっと合う髪型を毎回仕上げてくれる人に、続けて頼みたい。

髪型は、毎日、自分を支える。

そこに投資する価値は、他の多くの贅沢品より、はるかに、費用対効果が高い。

信頼する人を、持っておく贅沢。

美容師さんだけじゃありません。

歯医者さん、眼鏡屋さん、ネイリストさん、鍼灸師さん。

「この人に任せる」と決めた相手を、長く持っておくこと。

これが、大人の、静かな贅沢。

毎回、新しいサービスを試して、毎回、新しい人に自分を説明し続けるのは、疲れる。

暮らしに関わる大事な領域に、信頼できる一人ずつを、置いておく。

そうすると、日常の中での「選択疲労」が、劇的に、減る。

変えない人が、信頼できる人である理由。

関係を長く続けられるということは、お互いに、誠実だった証拠。

美容師さん側から見ても、5年通い続けるお客さんは、信頼の対象になる。

その信頼が、鏡の前での、わずか1時間のやりとりの質を、ぐっと深くする。

私は美容師さんから、髪型以上のものを、いつも受け取っています。

仕事のこと、プライベートのこと、体調のこと、家族のこと。

カットの間の何気ない会話のなかに、彼女の15年の経験が、滲む。

「この髪型の人、こういう時期を過ごすと、こうなりやすいですよ」みたいな、ちょっとした先見の言葉が、私の1ヶ月を、整えてくれる。

あなたにも、一人、いてほしい。

美容室を5年、変えていない人間として、ひとつだけ、おすすめしたいこと。

「この人」と決めた美容師さんを、一人、持っておく。

まだ見つかっていないなら、探す。

見つかったら、しばらく、浮気しない。

5年後、あなたの鏡の中の自分は、今とは少し違う、落ち着いた顔で、そこに座っているはずです。

美容は、一度の魔法ではなく、誰かと一緒に、ずっと育てていくもの。

そう考えると、美容室選びは、人生のパートナー選びと、少し、似ているのかもしれません。

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